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サイコパスが戦争を回避する?

 

道徳感情はなぜ人を誤らせるのか ~冤罪、虐殺、正しい心

道徳感情はなぜ人を誤らせるのか ~冤罪、虐殺、正しい心

 

さて、ここでまたトランプ大統領の話に戻ります。

トランプ政権を支えるオルタナ右翼の黒幕であるスティーブ・バノンは、元々ゴールドマン・サックス勤務だったり投資会社を経営したりする人物でした。

ところが、リーマンショックを引き起こした金融界の金持ちたちがまったく刑罰を受けない不平等に<道徳感情>が強烈に刺激され、美しい図式的計画によって世の中を変革させることを目指すようになったのです。

まさしく、アダム・スミスが『道徳感情論』で非難している<システムの人>そのものです。

とにかくバノンが囚われている因果は、米国は危機に陥ると80年ごとに大戦争を起して生まれ変わるという、まさしくこれ以上はない単純なる幾何学的理論だったりします。

しかし、歴史を振り返ってみると、独立戦争南北戦争、第二次大戦と実際に米国は80年ごとに大戦争を起して新しい段階に入っているのです。

しかも、第二次大戦参戦から76年後の今年、バノン自身が大統領上級顧問と国家安全保障会議の常任メンバーに就任したんですから、単純極まりない観念的な世界認識を笑ってばかりもいられません。

国家安全保障会議というのは、米国が戦争をはじめるかどうかを最終決定する機関です。トランプ政権では信じられないことに、統合参謀本部議長と国家情報長官を常任メンバーから外してしまいました。

軍や諜報機関からの客観的情報を入れずに、戦争をはじめるかどうかを決めるということで、現実よりバノンの抽象的観念が優先する国家戦略体制を構築したわけです。

これはもう、現実の世界情勢がどうであろうと、80年目の大戦争をバノンは引き起こそうとするでしょう。しかも、世界を崩壊させることにより、自然と新しい世界が生れるのだと公言しています。大量の犠牲者が出ることはむしろ必要だと考えているようで、<システムの人>が偉大なる理想のためにサイコパス化した典型ではあります。

国家安全保障会議から統合参謀本部議長と国家情報長官を外すなどという離れ業をやってのけるほど、ホワイトハウスにおけるバノンの影響力は絶大でした。彼を抑えつけることができるのは、もはやトランプ大統領しかないという状況になったのです。

そのトランプがより巨大なる評判を得るために、あるいは耐え難い退屈をまぎらわすために、戦争が一番の道だと考えれば、バノンの戦略に乗っかることになります。しかし、果たしてそんな具合になったりするでしょうか。

ここで頼りとなるのが、バノンの<システムの人>としてのこだわりです。幾何学的な美しい計画に取り憑かれている彼は、できるだけ80という数字に近づけるため、トランプの初回任期ぎりぎりの4年間は待とうとするでしょう。

また、もうひとつ頼りとなるのが、評判を得たい、さらには退屈を解消したいというだけで、特別なにをやりたいという理想もなく大統領になってしまったトランプのサイコパス的行動です。

トランプが大統領になるだろうと予言したマイケル・ムーアは、トランプが法を犯して大統領をクビになるだろうという予言もしています。トランプの飽きっぽい性格から、任期途中で自ら政権を放り出すのではと考えている人も大勢います。トランプが4年保たないほうに賭ける人もかなり多く、ブックメーカーのオッズは低いままです。

これは現実的にありそうな話です。何故か米国大統領はなんでもできると思っている人がいるのですが、議会の力が大きい米国では日本の首相よりも自分の意志通りに政策を決めるのは難しいのです。共和党とさえ対立点の多いトランプは、そうとうに苦労するでしょう。

これまで自分の企業やテレビ番組で好き放題にやってきた彼が、不自由極まりない大統領の座なんて退屈だと考えれば、我慢して留まるわけがありません。

9.11によって<道徳感情>を強く刺激された議会が認知バイアスによる因果の錯誤に押し流され、何故かテロとはまったく関係ないイラクに参戦しようとするブッシュ大統領を圧倒的多数で支持したようなことが起ればまた別ですが。

いや、たとえそんなことになっても、退屈は解消されないかもしれません。

勝算のない無謀な選挙戦に自ら突っ込んで勝ち上がる過程こそが刺激と注目を一身に浴びる快感に繋がっていたのであって、大統領職にそんな魅力はないでしょう。

いまだに去年の選挙戦のことばかりツイートしていることからも、トランプの興味がどこにあるのかが判ります。

いずれにせよ、トランプにとってバノンの理想なんかどうでもいいわけです。世間を驚かして話題になるから当初はその政策を採用しましたが、利用価値がないと考えればいつでも躊躇なく切り捨てるはずです。

そして、バノンは4月に国家安全保障会議から外されてしまいました。統合参謀本部議長と国家情報長官も、あっさり常任メンバーに戻されました。

しかしながら、バノンは依然として大統領上級顧問として大きな影響力を保持したままで、彼の真の狙いが4年後である限り、基本的な構図は変わっていないのです。

〔PHOTO〕gettyimages
いまはまだ早いと思っているのか、あるいは自分が動かなくともどうせ大規模戦争になるだろうと思っているのか、これまでも国家安全保障会議で積極的な発言はしていなかったようですし。

4年後に何も起きなかったときこそが、<システムの人>としてのバノンの計画遂行の本番ではあります。仮に政権から追い出されても、フェイクニュースサイトを駆使してオルタナ右翼を操るその扇動力はあなどれません。

むしろ、トランプが何もできないままに政権を放り出して、幾何学的計画を期待した支持者たちが落胆したあとこそ、バノンの出番なのかも知れません。

さらに、バノンが外れてから逆にシリアや北朝鮮との対立姿勢を強めて戦争の危機が高まったり、また振り上げた拳を引っ込めたりもしています。良くも悪くも壮大なる計画を遂行しようとするバノンとは違って、戦略もなく行き当たりばったりのトランプ大統領のやり方が前面に出てきたわけです。

しかし、一見バラバラのように見えて、恐怖心がなくリスク計算をできない者が、失敗や報復を恐れず最大限に評判を得られると思った案件へ闇雲に突っ込み、後始末などやらずにまた別の良さそうに思える案件に突き進むという、ひたすら評判を追い求める行動としては一貫しています。

今後の動向は、これらの<システムの人>やサイコパス的人物たちの<道徳感情>に突き動かされる精神の歯車の噛み合い具合で決まってくるのです。

それぞれの歯車に働きかけて、より良き方向に向かわせたいと考える米国国民や我々のような外国人は、<道徳感情>の仕組みをより深く理解しなければなりません。それはもちろん、自分自身の<道徳感情>による認識や行動のゆがみを自覚することも含まれているのですが。

次回以降はイスラム国など米国以外の事例も見ながら、この<道徳感情>の恐るべき力をさらに掘り下げていくことになります。

 

道徳感情論 (講談社学術文庫)

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