日蓮正宗のススメ

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1229夜:勤行要典の解説 寿量品第十六

妙法蓮華経如来寿量品第十六

【真読】
妙法蓮華経如来寿量品第十六
ぶつごうしょさつぎゅういっさいだいしゅしょぜんなんにょとうとうしんにょらいじょうたいごうだいしゅにょとうとうしんにょらいじょうたいごうしょだいしゅにょとうとうしんにょらいじょうたいさつだいしゅろくしゅがっしょうびゃくぶつごんそんゆいがんせっとうとうしんじゅぶつにょさんびゃくごんゆいがんせっとうとうしんじゅぶつ

【訓読】
 ときほとけもろもろ菩薩ぼさつおよ一切いっさい大衆だいしゅげたまわく、もろもろ善男子ぜんなんし汝等なんだちまさに、如来にょらい誠諦じょうたいことば信解しんげすべし。また大衆だいしゅげたまわく、汝等なんだちまさに、如来にょらい誠諦じょうたいことば信解しんげすべし。またまたもろもろ大衆だいしゅげたまわく、汝等なんだちまさに、如来にょらい誠諦じょうたいことば信解しんげすべし。とき菩薩ぼさつ大衆だいしゅ弥勒みろくはじめして、合掌がっしょうしてほとけもうしてもうさく、世尊せそんただねがわくはこれきたまえ。我等われらまさほとけみこと信受しんじゅしたてまつるべし。かくごとたびもうおわって、またもうさく、ただねがわくはこれきたまえ。我等われらまさほとけみこと信受しんじゅしたてまつるべし。

【通釈】
 その時に、仏は、多くの菩薩をはじめ、一切の聴衆にお告になった。「すべての清浄なる者よ、汝らは、まさに如来の真実の言葉を信じ、その心を会得しなさい」また重ねて、聴衆にお告になった。「汝らよ、まさに如来の真実の言葉を信じ、その心を会得しなさい」。また、さらに重ねて、すべての聴衆にお告になった。
「汝らよ、まさに如来の真実の言葉を信じ、その心を会得しなさい」。この時、会座にあった菩薩等のすべての聴衆は、弥勒を代表して、合掌して仏に申し上げた。「世尊よ、ひたすらお願いします、このことを説いてください。私たちは、まさに仏のお言葉を、必ず信じて受け持ちます」。こうして三たび申し上げ終わって、また重ねて申し上げた。「このことを説いてください。私たちは、まさに仏のお言葉を、必ず信じて受け持ちます」。

【語句解釈】
①善男子…仏法に帰依した在家・出家の男子のこと。
②誠諦…誤りのない絶対の真実。真理。
③菩薩…十界中、仏に次ぐ境界。大乗仏教で自利・利他を行ずる修行者。無上菩提を求める人。
弥勒弥勒菩薩のこと。阿逸多あいったともいう。南インドバラモンの家に生まれ、釈尊の弟子となった。その後八万歳、釈尊滅後五十六億七千万歳の後、再び世に下生して竜華樹の下で成道し、釈尊の説法に漏れた衆生を再度するとされる。このように来世で釈尊の処(位)を補って仏の後を継ぐので一生補処の菩薩とも、弥勒仏とも称される。


【真読】
そんしょさつさんしょうごうごんにょとうたいちょうにょらいみつじんづうりきいっさいけんてんにんぎゅうしゅかいこんしゃぶつしゅっしゃくぐうじょうおんどうじょうとくのくさんみゃくさんだいねんぜんなんじつじょうぶつらいりょうへんひゃくせんまんのくこう

【訓読】
 とき世尊せそんもろもろ菩薩ぼさつの、たびしょうじてまざることをろしめして、これげてのたまわく、汝等なんだちあきらかにけ、如来にょらい秘密ひみつ神通じんづうちからを。一切いっさい世間せけんてんにんおよ阿修羅あしゅら、皆今の釈迦牟尼仏しゃかむにぶつは、釈氏しゃくしみやでて、伽耶がやじょうをさることとおからず、道場どうじょうに坐して、阿耨あのく多羅たら三藐さんみゃく三菩提さんぼだいたまえりとおもえり。しかるに善男子ぜんなんしわれじつ成仏じょうぶつしてより已来このかた無量むりょう無辺むへん百千万億ひゃくせんまんのく那由他なゆたこうなり。

【通釈】
 その時に、世尊はすべての菩薩が三度まで願っても止まないことを知って、彼らに告げて言われた。「汝らよ、はっきりとよく聞きなさい、如来のみが知っていまだかつて説かなかった神通の力を。すべての世間における天界・人界、そして阿修羅界の三善道の者たちは、皆、今の釈迦牟尼仏は、釈迦族の宮殿から出家し、伽耶城から去ることほど遠くない道場に坐して、無上の完全な悟りを開かれたと思っている。しかしながら、清浄なる者たちよ、私は成仏してからこれまで、実に無量無辺百千万億那由他劫もの限りない時が過ぎているのである。

【語句解釈】
如来の秘密神通の力…仏のみが有する秘密の力。天台大師の『法華文句』には一身即三身を秘、三身即一身を、密、またいまだかつて説かなかったことを秘とし、ただ仏のみ知ることを密という。そして三身を本体、神通之力を三身の力有と説いている。日蓮大聖人は『御義口伝』において、これを無作三身の依文とされている。
②天人及び阿修羅…十界の中の天上界と人間界と阿修羅界の三界のこと。三悪道に対して三善道という。ここでは弥勒等の迹化の菩薩も仏の本寿命を知らないので、この中に包括される。
③菩薩…十界中、仏に次ぐ境界。大乗仏教で自利・利他を行ずる修行者。無上菩提を求める人。
釈迦牟尼仏釈尊のこと。釈迦牟尼とは釈迦種族のなかの聖者との意。
伽耶城…中インドの摩訶提国にある、釈尊成道の地の近くの金剛座を指す。
⑥阿耨多羅三藐三菩提…無上正遍知・無上正等覚などと約す。仏の無上絶対なる円満の悟りの意。
那由他劫…那由他とは一般的に千億の単位、劫とは非常に長い時間の意。


【真読】
にょひゃくせんまんのくそうさんぜんだいせんかい使にんまっじんとうぼうひゃくせんまんのくそうこくないいちじんにょとうぎょうじんじんしょぜんなんうんしょかいとくゆいきょうしゅろくさつとうびゃくぶつごんそんしょかいりょうへんさんじゅしょやくしんりきしょぎゅういっさいしょうもんひゃくぶつのうゆいげんしゅとうじゅうゆいおっちゅうやくしょだつそんにょしょかいりょうへん

【訓読】
 たとえば五百ごひゃく千万億せんまんのく那由他なゆた阿僧祇あそうぎ三千さんぜん大千だいせん世間せけんを、仮使たといひとって、まっして微塵みじんして、東方とうほう百千ひゃくせん万億まんのく那由他なゆた阿僧祇あそうぎくにぎて、すなわ一塵いちじんくだし、かくごとひがしいて微塵みじんつくさんがごとき、もろもろ善男子ぜんなんしこころおい云何いかんもろもろ世界せかいは、思惟しゆい校計きょうけいして、かずることをべしやいなや。弥勒みろく菩薩ぼさつとうともほとけもうしてもうさく、世尊せせんもろもろ世界せかいは、無量むりょう無辺むへんにして、算数さんじゅところあらず、また心力しんりきおよところあらず。一切いちさい声聞しょうもん辟支仏ひゃくしぶつ無漏智むろちを以ても、思惟しゆいしてその限数げんしゅることあたわじ、我等われら阿惟あゆい越致地おっちじじゅうすれども、なかおいては、またたっせざるところなり。世尊せそんかくごともろもろ世界せかい無量むりょう無辺むへんなり。

【通釈】
 譬えをもっていえば、五百千万億那那由他阿僧祇もの三千大千世間を、仮りに人が粉々にすりつぶして微塵にし、東方へ向かって五百千万億那那由他阿僧祇の国(三千大世界)を通過して、その一粒の微塵を下す。こうして、さらに東へと進み、これらの微塵をすべて下し尽くしたとしよう。清浄なるの者たちよ、汝らは、こうして微塵を下したすべての世界を、心の中で思いをめぐらし、計量して、その数を知ることができるであろうか、できないであろうか」。弥勒菩薩たちは、共に声をそろえて仏に申し上げた。「世尊よ、このすべての世界は無量無辺であって、計算して知られるところではなく、また私たちの心の用きが及ぶところでもありません。一切の声聞や辟支仏の、煩悩を離れた聖なる智慧をもって思いのめぐらしても、その数の限りを知り尽くすことはできません。私たちのように、仏道における不退転の位に到った菩薩でも、この実際の数量については、なお思い達することができないところです。世尊、これらのあらゆる世界は、まさに無量であり無辺です」。

【語句解釈】
阿僧祇…無数・無尽数と訳と約す。一説には千億の千倍の千倍(那由他の千倍)とされる。
②三千大千世界…三千世界とも、三千界とも、大千世界ともいう。須弥山を中心とした四州・九山八海を一小世界とし、それを千倍したものを小千世界といい、さらに千倍したものを中千世界、またさらに千倍したものを大千世界という。三たび千倍するので三千大千世界という。この全世界を一仏の教化範囲とする。
③微塵…極めてこまかい塵のこと。
④思惟…考えめぐらすこと。思いはからうこと。
⑤校計…くらべ計ること。計量すること。
⑥無漏智…煩悩を断じて証果を得た清浄の智慧
⑦阿由越致…阿毘あび跋致ばっちともいう。不退転の意。菩薩の位。


【真読】
ぶつごうだいさつしゅしょぜんなんこんとうふんみょうせんにょとうしょかいにゃくちゃくじんぎゅうちゃくしゃじんじんいちじんいっこうじょうぶつらいひゃくせんまんのくそうこうじゅうらいじょうざいしゃかいせっぽうきょうやくしょひゃくせんまんのくそうこくどうしゅじょうしょぜんなんちゅうげんせつねんとうぶっとうごんにゅうはんにょかいほう便べんふんべつしょぜんなんにゃくしゅじょうらいしょぶつげんかんしんとうしょこんどんずいしょおうしょしょせつみょうどうねんだいしょうやくげんごんとうにゅうはんしゅじゅほう便べんせつみょうほうのうりょうしゅじょうほっかんしん

【訓読】
 ときほとけ大菩薩衆だいぼさつしゅうげたまわく、もろもろ善男子ぜんなんしいままさ分明ふんみょうに、汝等なんだち宣語せんごすべし。もろもろ世界せかいの、しは微塵みじんき、およかざるものを、ことごともっちりして、一塵いちじん一劫いっこうとせん。われ成仏じょうぶつしてより已来このかたまたこれぎたること、百千万億ひゃくせんまんのく那由他なゆた阿僧祇あそうぎこうなり。これよりこのかた我常われつね娑婆しゃば世界せかいって、説法せっぽう教化きょうけす。また余処よしょひゃく千万億せんまんのく那由他なゆた阿僧祇あそうぎくにおいても、衆生しゅじょう導利どうりす。もろもろ善男子ぜんなんし中間ちゅうげんおいて、われ燃燈仏ねんとうぶつとうき、又復またまた涅槃ねはんるといき。かくごときはみな、方便を以て分別せしりなり。もろもろ善男子ぜんなんし衆生しゅじょうって、もと来至らいしするには、われ仏眼ぶつげんもって、信等しんとう諸根しょこん利鈍りどんかんじて、まさすべきところしたがって、処処しょしょみずか名字みょうじ不同ふどう年紀ねんき大小だいしょうき、亦復またまたげんじてまさ涅槃ねはんるべしとい、また種種しゅじゅ方便ほうべんもって、微妙みみょうほうき、衆生しゅじょうをして歓喜かんぎこころおこさしめき。

【通釈】
 その時に仏は、大菩薩たちに告げられた。「すべての清浄なる者たちよ、今、汝らに、まさにあきらかに宣告しよう。すべし。こうしたあらゆる世界のうち、もしくは微塵を下した国も、下さなかった国も、それら一切を合わせて再びすりつぶして微塵にし、そして一粒の塵ごとに一劫ずつの時をてることとしよう。私が成仏してからこれまで、この微塵の数に過ぎること、また百千万億那由他阿僧祇劫にもなる。それ以来、私は、常にこの娑婆世界にあって説法し、教化してきた。またそれ以外の百千万億那由他阿僧祇の国(三千大世界)においても、衆生を導き、利益を施してきた。多くの清浄なる者たちよ、その中間にあって、私は燃燈仏等のことを説いたり、また重ねてそれらの、仏が涅槃に入られたことを説いてきた。このようなことは、皆、真実へ導き入れるための方便として用いた計らいだったのである。あらゆる清浄なる者たちよ、もし衆生いて、私のもとに来る者には、私は、仏眼をもって、仏道に対するその信・精進・念・定・慧の五根の利根・鈍根の格差を察知し、まさに救済すべき相手に従って、それぞれの場所において、自ら異なった名前の仏として出現したり、その寿命の長短を説いたり、さらにまた、
まさに涅槃に入るべきことを示したり、また様々な方便を用いて、はるかに奥深い法を説き、衆生に対して、よく歓喜する心をおこさせてきたのである。

【語句解釈】
①宣語…広く告げ知らせること。宣告と同意。
②一劫…長時と訳す。人寿八万四千歳から百歳ごとに一歳を減じて人寿十歳に至り、さらにその十歳より百年ごとに一歳を増して人寿八万四千歳に至る。この一歳一増を繰り返す間を一小劫という。二十小劫を一中劫とし、四中劫を一大劫とする。
③娑婆世界…釈尊の教化する国土。娑婆は梵語で忍土・忍界と訳す。苦しみが多く、忍耐すべき世界の意。人間が現実に住む苦悩の充満する世界。
④燃燈仏…定光仏(錠光仏)のこと。定光菩薩ともいう。日月燈明仏の八王子の一人。釈尊が過去世に儒童菩薩として因位の修行中、この仏から未来成仏の記別を与えられた。
⑤涅槃…仏または聖者の死。入寂、入滅、滅度、寂滅ともいう。
⑥微妙…深遠ですぐれたさま。


【真読】
しょぜんなんにょらいけんしょしゅじょうぎょうしょうぼうとくはっじゅうしゃにんせつしょうしゅっとくのくさんみゃくさんだいじつじょうぶつらいおんにゃくたんほう便べんきょうしゅじょうりょうにゅうぶつどうにょせつしょぜんなんにょらいしょえんきょうでんかいだつしょじょうわくせつしんわくせつしんわくしんわくしんわくわくしょしょごんせつかいじつしょしゃにょらいにょじつけんさんがいそうしょうにゃく退たいにゃくしゅつやくざいぎゅうめつしゃじつにょにょさんがいけんさんがいにょにょらいみょうけんしゃくみょう

【訓読】
 もろもろ善男子ぜんなんし如来にょらいもろもろ衆生しゅじょうの、小法しょうぼうねがえる徳薄とくはく垢重くじゅうものては、ひとために、われわかくして出家しゅっけし、阿耨あのく多羅たら三藐さんみゃく三菩提さんぼだいたりとく。しかるにわれじつ成仏じょうぶつしてより已来このかた久遠くおんなることかくごとし、但方便ただほうべんもって、衆生しゅじょう教化きょうけし、仏道ぶつどうらしめんとして、かくごとせつす。もろもろ善男子ぜんなんし如来にょらいぶるところ経典きょうでんは、みな衆生しょじょうせんがためなり。あるい己身こしんき、あるい他身たしんき、あるい己身こしんしめし、あるい他身たしんしめし、あるい己事こじしめし、あるい他事たじしめす。もろもろ言説ごんせつするところは、みなじつにしてむなしからず。所以ゆえいかん。如来にょらい如実にょじつにし三界さんがいそう知見ちけんす。生死しょうじの、しは退たいしはしゅつることく、また在世ざいせおよ滅度めつどものし。じつあらず、あらず、にょあらず、異にあらず、三界さんがい三界さんがいるがごとくならず。かくごときのこと如来にょらいあきらかにて、錯謬しゃくみょうることし。

【通釈】
 すべての清浄なる者たちよ、如来は、様々な衆生のうち、低下ていげの教法求めるような、福徳の薄い、煩悩の垢が積もり重なった者を見ると、この人たちのために、『私は、今世で若くして出家し、無上の完全な悟りを得た』と説くのである。しかしながら、私が成仏してよりこれまで、実に久遠の時を経ていることは、既に説いたとおりである。ただ巧みな方便をもって衆生を教化し、真実の仏道に導き入れるために、こうした説をなしてきたのである。すべての清浄なる者たちよ、如来べるところの経典は、すべて衆生を救済し、解脱させるためのものである。仏は、あるときは自己の仏身(法身)について説き、あるときは他の仏身(応身)のについて説き、あるときは自己の仏身を示現し、あるときは他の仏身を示現し、あるときは自身のことがらを示し、あるときは他のことがらを示す。様々な言辞をもって説くところは、すべて真実であって、そこに虚言そらごとはない。その理由はどういうことか。如来は、その智慧によって、ありのままに欲界・色界・無色界の三界の相を見知することができるということである。したがって、生死において、三界より退いたり現れたりすることがあるのでもない。また三界の世にある者とか、解脱して滅度した者ということもない。真実だということでもなく、虚妄だということでもない。そのままのあり方ということげもなく、異なった別なあり方ということでもない。つまり、三界の衆生が三界を見るようなあり方ではないのである。このような三界の相を、如来は明らかに見て、錯誤することはない。

【語句解釈】
①小法…爾前迹門以下の低下の教法のこと。天台大師の『法華文句』巻九下には「小法をねがえる」の「小」について「小乗の人に非ざるなり。乃ち是れ近説を楽う者を小と為すのみ」(文句会本下294頁)とある。すなわち、寿量品の久成の説に迷う者を「小法を楽う者」という。
②徳薄垢重…福徳が薄く、煩悩のあかが積もり重なっていること。
③三界…欲界・色界・無色界のこと。地獄界から天上界までの六道の衆生が、輪廻し流転する迷いの境界を三つに分類したもの。
④錯謬…まちがうこと。錯誤。


【真読】
しょしゅじょうしゅじゅしょうしゅじゅよくしゅじゅぎょうしゅじゅおくそうふんべっよくりょうしょうしょぜんごんにゃっかんいんねんごんしゅじゅせっぽうしょぶつぞうざんぱいにょじょうぶつらいじんだいおん寿じゅみょうりょうそうこうじょうじゅうめつしょぜんなんほんぎょうさつどうしょじょう寿じゅみょうこんゆうじんばいじょうしゅねんこんじつめつ便べんしょうごんとうしゅめつにょらいほう便べんきょうしゅじょうしょしゃにゃくぶつじゅうはくとくにんしゅぜんごんびんせんとんじゃくよくにゅうおくそうもうけんもうちゅう

【訓読】
 もろもろ衆生しゅじょう種種しゅじゅしょう種種しゅじゅよく種種しゅじゅぎょう種種しゅじゅ憶想おくそう分別ふんべつるをもってのゆえに、もろもろ善根ぜんごんしょうぜしめんとほっして、若干そこばく因縁いんねん譬喩ひゆ言辞ごんじもって、種種しゅじゅほうく。所作しょさ仏事ぶつじいまかつしばらくもはいせず。かくごとく、われ成仏じょうぶつしてより已来このかたおおいに久遠くおんなり。寿命じゅみょう無量むりょう阿僧祇あそうぎこうなり。常住じょうじゅうしてめつせず。もろもろ善男子ぜんなんしわれもと菩薩ぼさつどうぎょうじて、じょうぜしところ寿命じゅみょういまなおいまきず。またかみすうばいせり。しかるにいまじつ滅度めつどあらざれども、しか便すなわとなえて、まさ滅度めつどるべしとう。如来にょらい方便ほうべんもって、衆生しゅじょう教化きょうけす。所以ゆえいかん。ほとけひさしくじゅうせば、薄徳はくとくひとは、善根ぜんごんを種えず。貧窮びんぐ下賎げせんにして、五欲ごよく貪著とんじゃくし、憶想おくそう妄見もうけんあみなかりなん。

【通釈】
 多くの衆生には、様々な性分があり、様々な欲望、様々な行為、様々な憶測などに、相異分別があるために、如来はあらゆる善根(徳本、善業を積むこと)を生じさせようとして、多くの因縁や譬喩、言辞を用いて、種種に法を説くのである。こうして仏としてなすべき行為は、いまだかつて少しの間も止めたことはない。このように、私が成仏してよりこれまで、実に大きな久遠という時が経っている。その寿命無量阿僧祇劫であり、常に住して滅することはないのである。すべての善良なる者たちよ、久遠の大本おおもとにおいて、菩薩の道法を修行して成就したところの寿命は、今なおいまだ尽きることはない。それどころか、上に挙げた年次の数に倍するほどである。ところが、今、真実の滅度ではないにもかかわらず、はっきりと私は『まさに滅度を現ずるであろう』と宣言するのである。如来は、こうした方便を用いて衆生を教化するが、その理由はどういうことであろうか。もし仏が入滅することなく、久しく世に在住したならば、 福徳の薄い人は、 かえって善根を植えようとはしないであろう。貧に窮して賎しくなり、本能的な五欲を飽くことなくむさぼって、妄想や邪見の網の中に入り込み、もがき苦しむこととなる。

【語句解釈】
①我本菩薩の道を行じて~上の数に倍せり…釈迦が久遠において仏果を成就するために、その原因となる菩薩道を行じたことを明かす文。天台大師はこの文を本因妙の文としている。
②貧窮…貧しくて生活に窮すること。貧困。貧苦。
③下賎…品性が卑しいこと。身分の低いこと。
④五欲…色欲・声欲・香欲・味欲・触欲の五つ。五根(眼・耳・鼻・舌・身)が五境(色・声・香・味・触)を対境として起こす欲望のこと。


【真読】
にゃけんにょらいじょうざいめつ便べんきょうえんだいのうしょうなんぞうそうぎょうしんにょらいほう便べんせつとうしょぶつしゅっなんしょしゃしょはくとくにんりょうひゃくせんまんのっこうわくけんぶつわくけんしゃごんしょにょらいなんとっけんしゅじょうとうもんにょひっとうしょうなんぞうそうしんれんかつごうぶつ便べんしゅぜんごんにょらいすいじつめつごんめつぜんなんしょぶつにょらいほうかいにょしゅじょうかいじつ

【訓読】
 如来にょらいつねってめっせずとば、便すなわ憍恣きょうしこして、厭怠えんだいいだき。難遭なんぞうおもい恭敬くぎょうこころしょうずることあたわじ。ゆえ如来にょらい方便ほうべんもっく。比丘びくまさるべし。諸仏しょぶつ出世しゅっせには値遇ちぐすべきことかたし。所以ゆえいかん。もろもろ薄徳はくとくひとは。無量むりょう百千ひゃくせん万億まんのくこうぎて、あるいほとけり、あるいざるものあり。もってのゆえに、われことばす。もろもろ比丘びく如来にょらいることべきことかたし。衆生しゅじょうかくごとことばいては、かならまさ難遭なんぞうおもいしょうじ、こころ恋慕れんぼいだき、ほとけ渇仰かつごうして、便すなわ善根ぜんこんゆべし。ゆえ如来にょらいじつめっせずといえども、しか滅度めつどすとう。また善男子ぜんなんし諸仏しょぶつ如来にょらいは、ほうみなかくごとし。衆生しゅじょうせんがためなれば、みなじつにしてむなしからず。

【通釈】
 こうした人は、もし如来が、常に世にあって入滅しないものだと思ったならば、ほしいままに驕(おご)り高ぶる思い必ず起こし、仏道に飽きて怠ける心を懐き、仏には値い難いという想いや、仏を恭(うやうやし)く敬う心を起こすことはできないであろう。このために、如来は、方便を用いて『修行者よ、よく知るべきである。諸仏が世に出現することに出値うのは、実に難しいことである』と説く。それは何故で多くの善根を積まない徳の薄い者にとっては、無量百千万億劫を経て、ようやく仏に値える者もあろうが、また値うことができない者もある。こうしたことがあるために、私は『多くの修行者たちよ、如来に値うことは、実に得難いことである』と語るのである。この衆生たちは、こうした言葉を聞いて、必ずや『本当に仏には値い難い』との想いを生じ、心から仏を慕う思いを懐き、熱く求めて仰ぎ敬い、そして善根を種えていくである。このため、如来は、真実には滅することがなくても『滅度する』と語るのである。また清浄なる者たちよ、あらゆる仏・如来は、皆、同様の法を用いて教化することを知るべきである。それは衆生を解脱させるためであり、すべてが真実であって虚偽ではない。

【語句解釈】
①憍恣…心がおごって気ままなこと。
②厭怠…厭は飽きること。怠はおこたり、なまけること。
③難遭…仏にいがたいこと。
④恭敬…仏・菩薩の振る舞いやその教法を慎み敬うこと。『大智度論』や『法華義疏』には、謙遜し畏れはばかることを恭といい、諸仏の智徳を思いやることを敬というとある。
⑤恋慕…仏を恋い慕うこと。
⑥渇仰…仏の徳を仰ぎ慕うことを、のどの渇いた者が水を求めることに譬えたもの。


【真読】
にょろうそうだつみょうれんほうやくぜんしゅびょうにんしょそくにょじゅうじゅうないひゃくしゅえんおんこくしょおんどくやくやくほつもんらんえんでんげんらいしょおんどくわくしつほんしんわくしつしゃようけんかいだいかんはいもんじんぜんなんのんとうぶくどくやくがんけんりょうきょう寿じゅみょうとう

【訓読】
 たとえば良医ろうい智慧ちえ聡達そうだつにして、あきらかに方薬ほうやくれんし、衆病しゅびょうするがごとし。其人そのひともろもろ子息しそくおおし、しはじゅう二十にじゅう乃至ないし百数ひゃくしゅなり。ことえんるをもって、とお余国よこくいたりぬ。もろもろのちに、毒薬どくやくむ。くすりほつ悶乱もんらんして、宛転えんでんす。ときそのちちかえきたっていえかえりぬ。もろもろどくを飲んで、あるい本心ほんしんうしなえる、あるいうしなわざるものあり。はるかにちちて、みなおおいに歓喜かんぎし、拝跪はいきして問訊もんじんすらく、安穏なんのんかえりたまえり。我等われら愚痴ぐちにして、あやまって毒薬どくやくふくせり。ねがわくは救療くりょうせられて、さら寿命じゅみょうたまえ。

【通釈】
 譬えをもっていえば、ある良医がいて、智慧が賢く、聡明で物事の道理に通達し、薬の処方に熟練して、よく一切の病気を療治するのと同様である。その良医には子供が多く、十人、二十人、ないし百人もいたとしよう。あるとき、良医は、所用があって、遠く他国へと出かけた。すべての子供たちは、父が出かけた後、誤ってほかの毒薬を飲んでしまった。 薬が効いてくると、 子供たちはもだえて脳乱し、地にのたうち回って苦しんだ。この時に、父の良医が他国より戻り、家に帰ってきたのである。多くの子供のなかには、毒を飲んで既に本心を失った者や、失わない者がいた。皆、遙かにその父を大いに歓喜し、ひざまずいて父を拝して『父よ、よく無事・安穏にお帰りになりました。私たちは愚かにも、誤って毒薬を飲んでしまいました。お願いですから、治療して命を救い、更なる寿命を与えてください』とこいねがったのである。

【語句解釈】
①聡達…さとくて事理に通ずること。賢くて明達なこと。
②方薬…薬の処方。
③宛転…曲がりくねって、のたうち回ること。宛は宛曲えんきょく
宛屈の意。転は展転の意。
④拝跪…ひざまずいて拝むこと。かしこまること。
⑤問訊…問いたずねること。
⑥愚癡…貪瞋癡の三毒の一つ。仏法の道理にくらく、理非に迷う愚かなさま。


【真読】
けんとうのうにょしょきょうぼうこうやくそうしきこうかいしつそくとうごうりょうぶくごんだいろうやくしきこうかいしつそくにょとうぶくそくじょのうしゅげんしょちゅうしっしんじゃけんろうやくしきこうこうそく便べんぶくびょうじんじょしっしんじゃけんらいすいやっかんもんじん。 しゃくびょう。 ねんやく。 こうぶくしょしゃどっじんにゅうしっぽんしんこうしきこうやく

【訓読】
 ちち子等こら苦悩くのうすることかくごとくなるをて、もろもろ経方きょうぼうって、薬草やくそう色香しきこう美味みみみなことごと具足ぐそくせるを求めて、擣簁とうし和合わごうして、あたえてふくせしむ。しかしてことばさく、大良薬だいろうやくは、色香しきこう美味みみみなことごと具足ぐそくせり。汝等なんだちふくすべし。すみやかに苦悩くのうのぞいて、またもろもろうれいけん。もろもろなかに、こころうしなわざるものは、良薬ろうやく色香しきこうともきをて、即便之すなわちこれふくするに、やまいことごとのぞこりえぬ。こころうしなえるものは、ちちたれるをまた歓喜かんぎし、問訊もんじんして、やまいせんことを求索もとむといえどもも、しかくすりあたうるに、しかえてふくせず。所以ゆえいかん。毒気どっけふかって、本心ほんしんうしえるゆえに、色香しきこうあるくすりおいて、うまからずとおもえり。

【通釈】
 父は子供たちがこのように苦悩に打ちひしがれている姿を見て、あらゆる薬方により、良き色、良き香り、良き味わいのすべてを備えた、極めて優れた薬草を求め、いて細末にし、ふるいにかけて調合し、子供たちに与え、服用させようとして、『この大良薬は。良き色、良き香り、良き味わいのすべてが整ったものだ、子供たちよ、これを服用しなさい。そうすれば、すぐに苦悩がなくなり、またすべてのわずらいがえてなくなる』と告げたのである。その大勢の子供たちのなかで、本心を失っていなかった者たちは、この色香等が共に優れた良薬を見て、即座に服用したところ、病がすべて除かれ、全快したのである。ところが、その他の本心を失った者たちは、父が帰ってきたのを見て、同じように歓喜し、ひれ伏して、病を治してほしいと求めるが、その良薬を与えても、あえて服用しなかったのである。何故かというと、彼らには。毒気が深く入り込み、本心を失っているため、この優れた色香等を備えた良薬に対して、好のましい薬ではないと思い込んだからである。

【語句解釈】
①色香美味…良医の調合した良薬が色・香・味ともに優れていること。
②擣簁和合…薬の原料をよくいて細末とし、それをふるいにかけて和合(調合)し、良薬に練り上げることをいう。


【真読】
ねんみんどくしょちゅうしんかいてんどうすいけんしゃっりょうにょこうやくこうぶくこんとうせつほう便べんりょうぶくやくそくごんにょとうとうこんすいろうこうろうやくこんざいにょしゅぶくもっさいきょうこくけん使けんごうにょしょもんはいそうしんだいのうねんにゃくざいしゃみんとうのうけんこんじゃしゃおんそうこくゆい

【訓読】
 ちちねんさく、此子ここあわれむべし。どくやぶられて、こころみな顛倒てんどうせり。われよろこんで、救療くりょう求索もとむといえども、かくごとくすりを、しかえてふくせず。いままさ方便ほうべんもうけて、くすりふくせしむべし、すなわことばさく、汝等なんだちまさるべし。いま衰老すいろうして、ときすでにいたりぬ。の好き良薬ろうやくを、いまとどめてここく。なんじってふくすべし。えじとうれうることなかれ。おしえわってまた他国たこくいたり、使つかいつかわしてかえってげしむ、なんじちちすでしぬ。ときもろもろちち背喪はいそうせりとき、こころおおいに憂悩うのうして、ねんさく、ちちいましなば、我等われら慈愍じみんして、救護くごせられまし。今者いまわれてて、とお他国たこくそうしたまいぬ。みずかおもんみるに孤露ころにしてまた恃怙じこし。

【通釈】
 そこで、父は『この子たちは実に不憫ふびんである。毒にあたって、心まですべて錯誤してしまった。私を見て喜び、治療・救済を求めるのに、これほどの良薬を前にしながら、あえて服用しない。私は今、まさに方便を設けて、良薬をこの子供たちに服用させよう』と考え、『子供たちよ、よく知っておきなさい。私は、もはや老い衰えて、死の時を迎えようとしている。この大良薬を、今、ここに留め置いていくから、汝らは、これを取って必ず服用しなさい。毒病が癒えないと思って落胆らくたんしてはならない』と子供たちに告げた。このように教えたあと、父は再び他国へ赴き、使者を遣わして『君たちの父は、他国でなくなった』と告げさせた。この時、大勢の子供たちは、父が旅先で世を去ったと聞き、心が憂いに打ちひしがられて、『もし父がおられたら、私たちをいつくしみあわれんで、必ず救済して護ってくれたであろうに…今はもう、私たちを見捨てて、遠い他国で亡くなってしまった。おもうに、私たちは孤児となり、もはや頼るべき人もなくなってしまった』と思い歎いた。

【語句解釈】
①顛倒…煩悩などのために誤った見方・在り方をすること。正理に反すること。
②背喪…肉身の者の期待に背いて死ぬこと。
③孤露…みなし子。親がいないこと。露はむきだしの意。
久遠の仏を知らない迷いの衆生を孤児に譬えたもの。
④恃怙…頼りとするところ。よりどころ。


【真読】
じょうかんしんずいしょうないやくしきこうそくしゅぶくどくびょうかいもんしっとくじん便べんらいげん使けんしょぜんなんうんにんのうせっろうもうざいほっちゃ。 そんぶつごんやくにょじょうぶつらいりょうへん。 ひゃくせんまんのくそうこうしゅじょうほう便べんりきごんとうめつやくのうにょほうせつもうしゃ

【訓読】
 つね悲感ひかんいだいて、こころつい醒悟しょうごしぬ。すなわくすり色香しきこう美味みみを知って、即ち取って之を服するに、どくやまいみなゆ。ちちことごとすでゆることをつといて、いで便すなわきたかえって、ことごとこれえしむ。もろもろ善男子ぜんなんしこころおい如何いかんひとの、良医ろうい虚妄こもうつみく有らんやいなや、いななり、世尊せそんほとけのたまわく。われまたかくごとし。成仏じょうぶつしてより已来このかた無量むりょう無辺むへん百千ひゃくせん万億まんのく那由他なゆた阿僧祇あそうぎこうなり。衆生しゅじょうためゆえに、方便力ほうべんりきもって、まさ滅度めつどすべしとう。またほうごとく、虚妄こもうとがものることけん。

【通釈】子供たちは、こうして常に悲しみの感情にさいなまされたが、その末、ついに覚醒し、本心を取り戻したのである。そして、この良薬の色・香り・味わいの優れたことを知り、すぐにこれを取って服用したところ、毒病はことごとく快癒したのである。その父は、子供たちが皆、本復することを得たと聞いて直ちに帰り、子供たちの前にその姿を見せたのであり。すべての清浄なる者たちよ、この話を、汝らの心で、どのように受け止めるのであろうか。だれであれ、強いてこの良医に虚妄の罪があると非難する人があろうか、なかろうか」。
 会座の聴衆は答えた。「いいえ、ありません、世尊よ」。
 仏は仰せになった。「私もまた、この良医と同様である。私が成仏してからこれまで、無量無辺百千万億那由他阿僧祇劫にもなる。衆生を教化するためにこそ、方便の力を用いて『まさに滅度するであろう』と述べるのである。しかしまた、こうした道理の上から、私に。虚妄の罪を問う者はけっしていないであろう」と。

【語句解釈】
①醒悟…煩悩の迷いから醒めて、本心に立ちかえること。
②虚妄…真実でないこと。いつわり。


【真読】
そんよくじゅうせんせつごん
とくぶっらい しょきょうしょこうしゅ りょうひゃくせんまん おくさいそう じょうせっぽうきょう しゅおくしゅじょう りょうにゅうぶつどう らいりょうこう しゅじょう ほう便べんげんはん じつめつ じょうじゅうせっぽう じょうじゅう しょじんづうりき りょうてんどうしゅじょう すいごんけん
【訓読】
とき世尊せそんかさねてべんとほっして、いてのたまわく、
われほとけてよりこのかたたるところもろもろ劫数こっしゅ
無量むりょう百千万ひゃくせんまん億載おくさい阿僧祇あそうぎなり
つねほういて無数むしゅおく衆生しゅじょう教化きょうけして
仏道ぶつどうらしむしかしよりこのかた無量劫むりょうこうなり
衆生しゅじょうせんがためゆえ方便ほうべんして涅槃ねはんげん
しかじつには滅度めつどせずつねここじゅうしてほう
われつねここじゅうすれどももろもろ神通力じんつうりきもっ
顛倒てんどう衆生しゅじょうをしてちかしといえどしかえざらむ

【通釈】
時に世尊は、重ねてこの意義を明らかにしようとして、宣べんと欲して、偈(詩文)をもって説かれた。
「私が仏果を得てから、これまでに経過した多くの劫数は、無量百千万億載阿僧祇にもなる。常に法を説いて無数億もの衆生を教化し、仏道に誘導してきた。これまでに無量劫を経ている。衆生を救済するためにこそ、方便として涅槃の相を現すのである。しかし、真実には滅度するのではなく、常にこの娑婆世界に住して、法を説いている。 私は常にここに住しているが、 あらゆる神通力を用いて、悪業によって真実を見誤っている衆生に対し、近くに私がいても見えないようにしているのである。

【語句解釈】
①涅槃…仏の入滅のこと。
②滅度…涅槃のこと。入滅すること。
③神通力…神秘的な感応の力。神通・通力ともいう。仏・菩薩・阿羅漢などが具えているとされ、五神通・六神通などの種類がある。


【真読】
しゅけんめつ こうようしゃ げんかいれん しょうかつごうしん しゅじょうしんぶく しちじきにゅうなん いっしんよっけんぶつ しゃくしんみょう ぎゅうしゅそう しゅつりょうじゅうせん しゅじょう じょうざいめつ ほう便べんりき げんめつめつ こくしゅじょう ぎょうしんぎょうしゃ ちゅう せつじょうほう

【訓読】
しゅ滅度めつどひろ舎利しゃり供養くよう
ことごとみな恋慕れんぼいだいて渇仰かつごうこころしょう
衆生しゅじょうすで信伏しんぶく質直しちじきにしてこころ柔軟にゅうなん
一心いっしんほとけたてまつらんとほっしてみずか身命しんみょうしまず
ときわれおよ衆僧しゅそうとも霊鷲山りょうじゅうせん
われとき衆生しゅじょうかたつねここってめつせず
方便力ほうべんりきもってのゆえめつめつりとげん
余国よこく衆生しゅじょう恭敬くぎょう信楽しんぎょうするものれば
われまたなかおいため無上むじょうほう

【通釈】
 衆生は、私の入滅度を見たならば、多様をくして仏舎利を供養し、そしてあらゆる人々が皆、心から仏を慕う思いを懐き、熱く求めて仰ぎ敬う心を生ずるであろう。衆生が、こうして仏に信伏し、極めて素直で柔和な心をもって、一心に仏を拝見しようと願い、自ら身命すら惜しまなくなったならば、時に応じて、私は多くの弟子たちと共に、霊鷲山に出現するのである。その時に、私は衆生に語るであろう。『私は、常にこの娑婆世界にあって滅することがない。ただ方便の力用りきゆうによって、滅・不滅の相があること現すのである』と。また娑婆世界以外の国々においても、私を心から敬い、信じ求め者がいたならば、私はまた、かの国土に出現し、その人たちのために無上真実の法を説くのである。

【語句解釈】
①舎利…仏の遺骨。仏舎利。塔に納めて供養し、信仰の対象とした。舎利には仏の肉身の遺体を指す生身の舎利と、仏の遺した教法・教典を指す法身の舎利の二種がある。この二種の舎利に、またそれぞれ全身と砕身の区別がある。
②質直…誠実で正直なこと。素直なこと。
霊鷲山…中インド、摩訶提国の首都・王舎城の北東にあり、釈尊法華経などを説いた山。耆闍ぎしゃ崛山くっせん、霊山ともいう。
④無上…この上もないこと。最もすぐれたこと。最上の意。


【真読】
にょとうもん たんめつ けんしょしゅじょう もつざいかい げんしん りょうしょうかつごう いんしんれん ないしゅつせっぽう じんずうりきにょ そうこう じょうざいりょうじゅせん ぎゅうしょじゅうしょ しゅじょうけんこうじん だいしょしょう あんのん てんにんじょうじゅうまん

【訓読】
汝等なんだちこれかずしてただわれ滅度めつどすとおもえり
われもろもろ衆生しゅじょうるに苦海くかい没在もつざいせり
かるがゆえためげんぜずしてれをして渇仰かつごうしょうぜしむ
こころ恋慕れんぼするにってすなわでてためほう
神通力じんずうりきかくごと阿僧祇あそうぎこうに於て
つね霊鷲山りょうじゅせんおよもろもろ住処じゅうしょ
衆生しゅじょうこうきて大火だいかかるるととき
安穏あんのんにして天人常てんにんつね充満じゅうまんせり

【通釈】
 汝らはこのことを聞かずに、ただ私が滅度すると思っている。私があらゆる衆生を見わたすところ、みな苦悩の生死海にうずもれている。このため、私は、わざと身を現さず、その者たちに、仏を熱く求めて仰ぎ敬う心を生じさせる。そして心からあこがれ仏を慕ったとき、はじめて身を現して、その者たちのために法を説くのである。仏の神通力とは、まさにこうしたものである。阿僧祇劫もの長時にわたって、私は霊鷲山をはじめ、その他のあらゆる国土に住している。衆生にとっては、住劫が尽きて壊劫に入り、世の一切が大火に焼かれて滅尽するとみえる時でも、私が住するこの仏国土は安穏であり、天の諸神や清浄な人々で充ち満ちている。

【語句解釈】
①苦海…生死、苦悩が海のように果てしなく広がっている世界。
阿僧祇劫…数えることのできない長い期間のこと。
③劫…四劫中の住劫のこと。四劫とは四種の時劫のことで、一世界が成立し、継続、破壊を経て次に成立するまでを、成・住・壊・空の四期に分けたもの。四劫が一度輪廻する期間を一大劫という、成・住・壊・空の四劫の各々を中劫といい、それぞれ二十小劫から成る。


【真読】
おんりんしょどうかく しゅじゅほうしょうごん ほうじゅ しゅじょうしょゆうらく しょてんぎゃくてん じょうしゅがく まん さんぶつぎゅうだいしゅ じょう しゅけんしょうじん しょのう にょしつじゅうまん しょざいしゅじょう あくごういんねん そうこう もんさんぼうみょう

【訓読】
園林おんりんもろもろ堂閣どうかく種種しゅじゅの宝をもって荘厳し、
宝樹ほうじゅ華果けかおおくして衆生しゅじょう遊楽ゆうらくするところなり
諸天しょてんてんつづみってつねもろもろ伎楽ぎがく
曼陀羅まんだらけらしてほとけおよ大衆だいしゅさん
浄土じょうどやぶれざるにしかしゅきて
憂怖うふもろもろ苦悩くのうかくごとことごと充満じゅうまんせりと
もろもろつみ衆生しゅじょう悪業あくごう因縁いんねんもっ
阿僧祇あそぎこうぐれども三宝さんぼうみなかず

【通釈】 仏国土の園や林、あらゆる堂宇・楼閣は、種種な宝をもって荘厳され、七宝で飾られた樹木には、多くの華が咲き、果を結んで、衆生が遊楽する場所となっている。諸天善神は、天の鼓を打ち鳴らして常に様々な音楽を奏(かな)で、また曼陀羅華を雨らして、仏をはじめ大衆に散じ、供養している。我が浄土は、 このように常住で壊れないにもかかわらず、 衆生には、世界が焼け尽きて、憂いや怖れ、あらゆる苦悩が、こんなにも満ちあふれていると見えるのである。こうしたすべての罪多き衆生は悪業の因縁によって、阿僧祇劫もの長時が経過しようとも、仏法僧の三宝の名前すら聞くことができない。

【語句解釈】
①遊楽…遊び楽しむこと。仏法を敬愛し、善を行ない、徳を積んで自ら楽しむ法楽の意。
②伎楽…天人の奏でる音楽。
曼陀羅華…天上界から降ってくる美妙な華。四種の蓮華、すなわち曼陀羅華・摩訶曼陀羅華・曼珠紗華の一つ。
④憂怖…うれおそれるおもい。
⑤悪業…苦果を招く身口意の三業によるしき行為、とりわけ謗法の悪業を指す。


【真読】
しょしゅどく にゅうしちじきしゃ そっかいけんしん ざいせっぽう わくしゅ せつぶつ寿じゅりょう ないけんぶつしゃ せつぶつなん りきにょ こうしょうりょう 寿じゅみょうしゅこう しゅごうしょとく にょとうしゃ もっしょう とうだんりょうようじん ぶつじつ

【訓読】
もろもろらゆる功徳くどくしゅう柔和にゅうわ質直しちじきなるもの
すなわみなここってほうくと
或時あるときしゅため仏寿ぶつじゅ無量むりょうなりと
ひさしくあっていまほとけたてまつるものはにはためほとけにはがたしと
智力ちりきかくごと慧光えこうてらすこと無量むりょう
寿命じゅみょう無数むしゅこうなりひさしくごうしゅうしてところなり
汝等なんだち智有ちあらんものここおいうたがいしょうずることなか
まさだんじてながきしむべし仏語ぶつごじつにしてむなしからず

【通釈】
 それに対し、あらゆる功徳を修め、柔和で正直な者にとっては、皆、私の身相がここにあって、法を説いていると見える。そこで、私は、ある時をには、こうした衆生のために『仏の寿命は無量である』と説き、また久しい時を経てようやく仏を拝見した者たちには『仏には非常に値いがたい』と説くのである。私の智慧の力は、まさにこうしたものである。その智慧の光明が照らすところは無量であり、その智慧の寿命は無数劫にもわたる。それは久しく修業(菩薩道)を修して得た果報である。汝らよ、智慧明らかな者たちよ、このことに対して疑いを生じてはならない。まさに疑いを残すところなく、永遠に断じ尽くしなさい。仏の語るところは、すべて真実であって、わずかの虚妄もない。

【語句解釈】
①智力…仏の智慧の力。
②慧光…智慧の光明。


【真読】
にょぜんほう便べん おう じつざいごん のうせつもう やく しょげんしゃ ぼんてんどう じつざいごんめつ じょうけん しょうきょうしん ほういつじゃくよく あくどうちゅう じょうしゅじょう ぎょうどうぎょうどう ずいおうしょ せつしゅじゅほう まいねん りょうしゅじょう とくにゅうじょうどう そくじょうじゅぶっしん

【訓読】
くすし方便ほうべんをもって狂子おうじせんがためゆえ
じつにはれどもしかすとうに虚妄こもうくものきがごと
われまたちちもろもろ苦患くげんすくものなり
凡夫ぼんぷ顛倒てんどうせるをもっじつにはれどもしかめっすと
つねわれるをもってのゆえしか憍恣きょうしこころしょう
放逸ほういつにして五欲ごよくじゃく悪道あくどうなかちなん
我常われつね衆生しゅじょうどうぎょうどうぎょうぜらるをって
まさすべきところしたがってため種種しゅじゅほう
つねみずかねんさくなにもってか衆生しゅじょうをして
無上むじょうどうすみやかに仏身ぶっしん成就じょうじゅすることをせしめんと
【通釈】
 良医が巧みな方便を用いて、毒病におかされ、本心を失った子たちを治療させるために、実際には生きているのに『父は死んだ』と伝言させたことについて、あえて虚妄だと非難する者がないのと同様に、私もまた、世の一切衆生の父であり、あらゆる苦悩や病患から救済する者である。凡夫が見誤って道理に背いていることにより、真実には世に存在しているのに、あえて『滅度する』と私は説くのである。そうでなければ常に私を見ることによって、かえってほしいままにおごり高ぶり、勝手気ままに振る舞って五欲にふけり、悪道に堕落していくであろう。私は、常に、衆生のなかに、仏道を修行する者と修行しない者とを知り、またそれぞれの救済すべき方途に従って、種種の法を説くのである。私は、常におもいめぐらしている。『どのようにしたら、あらゆる衆生が無上菩提の道へ入り、それぞれ速やかに仏身を成就することができるであろうか』と」。

【語句解釈】
①苦患…悩み。苦しみ。
②放逸…わがままなこと。勝手気ままなこと。
③五欲…五種の欲望のこと。眼・耳・鼻・舌・身の五種が、しきしょう・香・味・そくの五境を対境として起こす欲。