エセー Les Essais

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1005夜:疑うことは悪いことか?

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分からないことはありますよ。

僕の敬愛する哲学者・モンテーニュの親友に、エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ(1530~1563)がいた。

30そこそこで亡くなってしまうのだが、16歳または18歳のときに彼が著したのが、自発的隷従論 (ちくま学芸文庫)である。 

自発的隷従論 (ちくま学芸文庫)
 

なぜ、人々は自ら隷従するのか。

後輩は先輩に、先輩はその先輩に。いじめられっ子はいじめっ子に、いじめっ子はそのボスに。選手はコーチに、コーチは監督に……。

そして、信者は宗教家に。

この「自発的隷従」という現象を論じた作品は、モンテーニュの不可知論的な懐疑主義に通底する思想だ。

有名な言葉「クセジュ」(フランス語: Que sais-je? 〔Que sçay-je?〕)は、「我、何をか知る」すなわち「わたしは何を知っているだろうか?」を意味するフランス語の表現。モンテーニュ「エセー」の神髄だ。

完全な懐疑主義とも違う。

知り得ないと断定することもない。

中庸・寛容の精神そのものと言えよう。

私は自身の信仰を持っているが、妄信はできない。

それは、この哲学の影響下にあるからだと思う。

自発的隷従論 (ちくま学芸文庫)は、非常に読みやすく、論理が明快な古典である。時に学校で時に企業で、自発的隷従者であることを強いられる我々現代人は是非目を通しておきたい一冊である。

今回はざっくりした解説だけで終わらせたが、何かを論じようとする場合、これほど補助線として使うのに便利な論考もないであろう。以下に要約を記すので、参考にされたい。なお、内容を簡潔に、淡々と紹介する。便宜上、4つの章に分けた。

目次

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ロボット化する人々

1、なぜ隷従するのか。

 みんなが隷従する人、いわばボスは「圧政者」である。

 圧政者は力を持っているが、その力は隷従する人が彼に与えたものだ。なぜなら、圧政者が人々を害することができるのは、みんなが好き好んでそれに耐えるのだから。

 

 圧政者は、ときに百人千人いな百万という膨大な人々の上に君臨する。

 その百人や千人が一人相手に歯向かえないのは、なぜか。

 圧政者を恐れているから倒さないのか?彼らが臆病だから?

 否。そんなに極端な臆病など決してあり得ない。それは臆病と呼ばれるに値しない。そんな極端な悪徳を自然は決して作らない。

(ここでボエシは、圧政者を畏れているからではなく、嘲っているからとはいえまいか?と触れている)

 

 圧政者を倒すには、彼から何かを奪う必要はない。

 与えないだけでよい。自分のためにならないことをしないだけでよい。

 つまり、隷従しなければよいだけなのだ。

 隷従か自由かを選択できるのに、人々は自ら隷従を選択している。自由は、欲しさえすれば得られるのに……。

 

 善を求める欲望は自然なもので、各人の賢愚善悪は関係ない。

 みんな、自分が幸せになるものなら、なんでも欲する。

 ただし、自由以外は。

 なぜ、自由を欲さないのか。

 ボエシの答えはこれだ。「自由は欲するだけで得られるから」

 獲得があまりにたやすいから欲しない、というパラドックスである。

 

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指示待ち人間?

2、「隷従への執拗な意志」はどこからきたか。

 そもそも、自然状態において、人が自由であることは当然だ、という。

 動物など、感覚を持つあらゆる存在は、自由を求める。

 

 圧政者には、選挙・武力・相続によって生まれる三類型があるが、支配の容態は同じ。人々を自由から遠ざけることだ。

 人々ははじめ、強制されたり、打ち負かされたりして隷従する。が、隷従した者の子供たちは、生まれたままの状態で満足する。生まれた状態を、自然だと感じてしまう。

 つまり、習慣によって人々は平然と隷従するのだ。

 自然は習慣ほど力を持たない。維持しなければ失われてしまうから。そして、教育は我々を自然に反して作り上げ、その習慣を再生産する。

「人は手にしたことのないものの喪失を嘆くことは決してないし、哀惜は快のあとにしか生まれない」

「不幸の認識は、つねに過ぎ去った喜びの記憶とともにある」

「人間の自然は、自由であること、あるいは自由を望むことにある。しかし同時に、教育によって与えられる性癖を自然に身につけてしまうということもまた、人間の自然なのである」(43頁)

 

 つまり、自発的隷従の第一の原因は、習慣である。

 が、いつの世にも、生まれつき優れていて、隷従を揺るがそうとする者がある。彼らは、歴史を回想し、未来のことを判断し、現在を検証する。彼らは優れた頭脳を、学問と知識によって磨き上げる。彼らには、自由が失われた世界においても、その精神によって自由を想像し感じ取り、味わうことができる。そして隷従にはいかなる魅力も感じない。

 

 だが、「トルコの大王」(偉大なる圧政者の代名詞と考えてよい)は、書物や学識が圧政を憎む能力と理解力を育てることを熟知している。ゆえに、言論や行動の自由も弾圧する。

 その弾圧によって、自由を想像できる優れた人も、互いに知ることがないまま、自分の殻に籠ってばらばらになっている。インテリは孤立して何もできなくなるのだ。

(そんな中で「自由」の名を唱えて圧政者を放逐する者も出なくはないが、彼らは王冠を別の圧政者の頭上に移すだけになることが往々にしてある。ボエシは「自由」という「聖なる名」を軽々と使うなと警鐘を鳴らしている)

 

 隷従する第二の理由は、圧政者のもとで人々は臆病になりやすいことだ。隷従する者は勇敢さも活力も失ってしまう。(ここの説明は簡潔で、「習慣」ほど詳しい説明はない)

 

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気づけば盲動するように・・・

3、圧政者のやり口

 圧政者は、以下のような詐術を使う。

遊戯、饗応(人々は素直に受けるべきでない快楽には放埓でありながら、律義に耐えるべきでない横暴には鈍感だ)、称号、自己演出、宗教心の利用(愚かな民衆は、自ら嘘を作ってはそれを信じる)

 

4、小圧政者たち

 圧政者を守るのは武力ではない。取り巻きである。

 甘い汁を吸う側近5,6人。その周りには、600人。さらに6000人……という風に。圧政から利益を得ているであろうものが、自由を快く思う者と者と同じくらいは存在するのである。

 王が自ら圧政者と宣言すると、その分け前にあずかろうと悪党が蝟集して圧政者を支え、自らは小さな圧政者になる。

 小さな圧政者は、自らは圧政者の悪に耐え、下位の無力な者に悪をなすのである。

 その最下位にあって、小圧政者に搾り取られる農民たちは、隷従していても、言いつけを守ればそれで済むからまだよい。

 だが、小圧政者は、上司の庇護がなければ生き延びることは出来ない。小さな圧政者は、服従するだけでなく、上位の圧政者に気にいられなければならない。自らの本性を捨ててでも。

「彼の快楽を自分の快楽とし、彼の好みのために自分の好みを犠牲にし、自分の性質を無理やり変え、自分の本性を捨て去らねばならない」(70頁)のである。

 つまり、圧政者を支えるとは、自ら自由を捨てて隷従を抱きしめるということだ。

「この連中は、まるでなにかを獲得すれば、それが自分のものとなるかのように、財を獲得しようとして隷従している。自分自身ですら自分のものではないというのに」(71頁)

 これを生きていると呼べるか?

 

 自分を捨てて圧政者に隷従する小圧政者は、自己放棄のすえに何を得られるのか。

 富を得られる。

 が、富を維持できるものはごくわずかである。圧政者の好意は長持ちしない。なぜなら、圧政者は愛することも愛されることもないから。友愛は平等の中にしか見いだせないので、最上位の圧政者に友愛を期待しろという方が無理である。

「連中は、たいていの場合、圧政者の庇護のもと、他人のもちもので肥え太ったあと、ついには、自分自身のもちものによって圧政者を肥え太らせたのである」(72頁)

 結局、小圧政者が得られるものは、一つだけだ。

 搾り取った民衆からの直接の怨嗟・侮辱・呪詛である。それが圧政者への奉公から受け取る唯一の栄誉なのだ。

 

 最後を締めるのは、次のセリフだ。

「私としては、圧政者とその共謀者に対する格別の罰を、神が来世で用意してくださっていると確信している。私はまちがっていないだろう。圧政ほど、完全に寛大で善なる神に反するものはないのだから」(81頁)

 

以上。 

自発的隷従論 (ちくま学芸文庫)
 

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