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<道徳感情>と幾何学的思考

 

道徳感情はなぜ人を誤らせるのか ~冤罪、虐殺、正しい心

道徳感情はなぜ人を誤らせるのか ~冤罪、虐殺、正しい心

 

さて、ここでようやく現代の世界情勢の話になるわけです。

みなさんすでに充分ご承知のように、格差拡大が昨今の激動の根本原因ではあります。しかし、格差の拡大が何故そんな事態を引き起こしてしまうのでしょうか。このあたりのことは、あまりきちんと理解されていないような気がします。

もともと誰かを罰したいという欲求のために因果に異様にこだわる人間の性質が、格差が拡大して<道徳感情>が強く刺激されるとさらに増幅されて、単純な図式的因果である物語に取り憑かれてしまうことが原因なのです。

これは抽象的な理論ではなく、歴史上実際に何度でも起ってきたことです。平等が破られ格差が広がったときに、美しい理想に取憑かれてテロを起したり、美しい計画を掲げる扇動政治家が人気を博したりといった悲劇が繰り返されました。なにゆえ悲劇かというと、美しい物語は現実とはまったく関係ないので、必ず破綻するからです。

アダム・スミスの『道徳感情論』では、この現象を<システムの人>と呼んでいます。<システムの人>は自分では非常に賢明なつもりで、チェス盤の駒を自在に動かすが如き、華麗なる統治計画を立てるんですが、実際の人々はチェスのようには動かず、そんな計画は頓挫するのです。

これは、格差拡大のために隣国で勃発したばかりのフランス革命の先行きを分析したものでした。頭のいい啓蒙主義者たちはまさしく<システムの人>となって、頭の中で考えついた幾何学的に美しい計画を実行しましたが、スミスの予言通りにすべて失敗したため誰にも制御できない大混乱を引き起こすことになるのです。

革命の内乱だけで25万人、さらに派生したナポレオン戦争ではヨーロッパ中を巻き込んで400万人の死者が出たと云われています。啓蒙主義者たちは、人々を幸福にしようと純粋に願っていただけなんですが、女子供を含めた多くの人々を虐殺することになってしまったのです。

人間は単純な図式的因果関係に囚われてしまうと、その美しい幾何学的認識に反することは、目の前の現実でさえ受け付けなくなります。なによりもこの<道徳感情>による認知バイアスを増幅してしまうところに、格差拡大の最大の問題があるのです。

格差が広がると、判りやすい因果で構成された幾何学的で美しい計画に取憑かれて国家を大混乱に陥らせたりするのは、右翼も左翼も変わりません。

欧州の極右が勢力を伸ばしていることはよく話題になりますが、欧州では急進的な左翼も大きな力を持ってきています。米国でもバーニー・サンダースを熱狂的に支持する左翼や、トランプを熱狂的に支持するオルタナ右翼が台頭しました。

現在の米国の問題は、企業や金持ちが税金を払わなくなったために再分配が機能せず、格差が広がって、教育を含めたインフラが劣化したことにあるはずなんですが、トランプ政権のもとで、企業や金持ちのさらなる減税を推し進めようとしています。トランプが唱える単純なる因果の物語に囚われた人が半分はいたということです。

かつて海外の安い製品が入ってきて製造業が破壊されたり、移民が入ってきて職を奪われたりしたのは事実なので無理もないところではありますが。米国はそんな段階は脱してグローバリズムで打撃を受けるような産業はすでにあらかた淘汰され、いまではグローバリズムで儲かる企業ばかりです。

しかし、その恩恵を受けるのは経営者や株主など富裕層だけで、彼らが税金を払わず全国民に富を分配しないため、中間層や貧民は没落して<道徳感情>を刺激される。富裕層よりも具体的に目に付く移民を敵視するようになり、トランプが反グローバリズムや移民排斥を唱えると支持するようになってしまうのです。

そもそも、移民に職を奪われたというのも、金融業界の金持ちが引き起こしたリーマンショックの不況で仕事全体が減ってしまったことが大きいのですが。

移民は文化が違うために評判の交換がうまくいかなかったり、白人は自分たちが少数派に転落するのではないかという恐怖もあったりしますが、それらも格差が開いてさえなければ大多数の人はもっと余裕を持って受け入れることができたはず。

つまり、グローバリズムや移民が問題の原因ではないんです。格差が広がると<道徳感情>による認知バイアスで目の前の現実が見えなくなってしまう典型です。 

さらに、デマやフェイクニュース陰謀論など、通常なら一部の変わった連中にしか通用しないおかしな話が大きな力を持って世の中を動かしてしまったりするのも、格差が広がった時代の特徴のひとつです。

これも<道徳感情>が刺激されて因果に異様にこだわる人間の性質が増幅され、因果のないところに因果を見出だし単純な図式的因果である物語に取り憑かれてしまうためなのでしょう。

デマには惑わされず、格差の原因がよく判っていた人でも、オバマが正しくチェンジしてくれると信じてたのに駄目だったので、やけくそになってすべてをぶっ壊してもらおうとトランプ支持に回ったりしました。

これもまた平等を求めて、そのためには自分が損をしても構わないという数百万年の進化が形成した人間の本性の発現ではあります。

そんななかでもオルタナ右翼は移民排斥などの単純な物語しか持っていないように見えますが、政権に入り込んだ指導層はわりあいとインテリなので、幾何学的で壮大なる計画を立てて実行しようとしています。自分たちは頭がいいので、トランプを操れると思っているのでしょう。

しかしながら、彼らのほうが反対に、いつでも切り捨てられるのではないでしょうか。とりあえずトランプ大統領は、オルタナ右翼のように不平等から来る<道徳感情>に突き動かされているわけでも、政治的信念を持っているわけでもないからです。

そこで、次回はサイコパスについて考察せねばなりません。それはトランプ大統領サイコパスだというような安直な話では済まないのです。

道徳も感情も欠落しているはずのサイコパスが、何故かやはり<道徳感情>に突き動かされている。そんな人間精神の深遠に迫るお話となるでしょう。

そこから、格差が拡大すると何故まずいのか。さらなる恐るべき真実が見えるようになるはずなのです。

道徳感情論 (講談社学術文庫)

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