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米中冷戦の幕開け

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The Globe Now: 米中冷戦の幕開け

 ソ連を打倒した冷戦に続き、中国に対する第2次冷戦の宣戦布告がなされた。
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■1.第2次冷戦の宣戦布告

 昨年10月4日にマイク・ペンス米副大統領がワシントンで行った演説は、米中冷戦の宣戦布告だと多くの識者が評した。レーガン大統領が西側諸国との結束のもと、ソ連を「悪の帝国」と呼んで打倒・解体させた第1次冷戦に続く、第2次冷戦とも言われる。

 ペンス演説の内容を紹介する前に、その印象的な結びを見ておこう。

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 トランプ大統領指導力のもと、米国はやり遂げる。中国は米国民と、彼らに選ばれた両党の連邦議員が決断したことを知るべきだ。
・・・大統領は、中国と、両国の繁栄と安全がともに成長する建設的な関係を望んでいることを明確にした。中国政府がこのビジョンから離れていっているが、中国の指導者が進路を変更して、数十年前の両国関係を象徴する改革開放の精神に立ち戻ることは可能だ。米国民はそれ以上を望まないし、それ以下は中国国民にふさわしくない。[1]
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 語り口はソフトだが、これは「大きな棍棒を携え、穏やかに話す(speak softly and carry a big stick)」というアメリカの伝統的な外交姿勢そのものである。

 トランプ政権が最初に振り上げた「棍棒」は関税だった。対中貿易赤字と不公正な貿易慣行を問題にして、昨年3月にアルミと鉄鋼の関税を引き上げたのを手始めに、7月には中国からの輸入品340億ドル分に25%、8月には160億ドル分に25%、9月には2000億ドル分に10%の関税を掛け始めた。中国も初めは対抗して関税をかけていたが、途中で追いつかなくなった。

棍棒」を振るいながら、「両国の繁栄と安全がともに成長する建設的な関係を望んでいる」とし、現在の「中国政府がこのビジョンから離れていっている」と穏やかに批判する。口調はソフトで前向きだが、要は「今の路線を変えないと、もっと大きな棍棒が待ってるぞ」という「恫喝」である。


■2.中国に騙され続けてきたアメリ

 この演説がハドソン研究所中国戦略センターにおいて、所長マイケル・ピルズベリーの前で行われたという事実が、その性格を如実に表している。

 弊誌937号[a]で紹介したように、ピルズベリーはかつては親中派として歴代政権の対中政策に関わっていたが、その著書『China2049 秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」』では、自分を含めてアメリカがいかに中国に騙されてきたか、を赤裸々に語った。

 それによれば、アメリカはソ連との冷戦に勝つために中国に肩入れしてきたが、実は中国は「中国共産党革命100周年にあたる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」という「100年マラソン」なる計画を持って、アメリカや西側諸国を騙してきた、というのである。

 そもそもトランプは大統領選の時から「中国からの輸入品に45%の関税をかけろ!」と主張していた。その際の政策アドバイサーを務め、政権発足後にホワイトハウス国家通商会議の委員長に就任したピーター・ナヴァロ・カリフォルニア大学教授も、同様に厳しい対中認識を著書『米中もし戦わば──戦争の地政学』で明らかにしている。[b]

 こういう伏線がいよいよ政策として具現化され、それを世界に宣言したのが今回のペンス演説だと考えてよいだろう。

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■3.トランプの「棍棒

 トランプ大統領は昨年から習近平国家主席と何度か会って、対米黒字削減を要求してきた。2017年の対米貿易黒字は4千億ドル近くまで膨れあがっており、直近ではこの半分強の2千億ドルの削減を求めている。これが実現すれば、中国の経常収支黒字は2千億ドル弱なので、全体では赤字となってしまう。

 今まで中国の軍事支出が急速に膨れあがってきたペースは、経常収支黒字の伸びに見事に比例している。2017年の軍事支出は22百億ドル規模と、経常収支黒字とほぼ同規模となっている。[2, 306] いわば、中国はアメリカへの貿易黒字でドルを稼ぎ、それに比例して人民元を発行して、軍事支出を増やしてきた。

 軍拡だけではない。アジアインフラ投資銀行(AIIB)や一帯一路構想は、中国の貿易黒字で貯め込んだドルを見せ金にして、途上国を引き込んできた。ペンスはこれを「借金漬け外交」として糾弾する。

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 今日、あの国は何千億ドルものインフラに対する借款をアジアからアフリカ、欧州、そして中南米にまで提供している。だが、借款の条件は良くても不透明で、利益は常に圧倒的に中国政府に流れるようになっている。

 スリランカに聞いてみればいい。スリランカは、高額の借金をして中国の国営企業に、商業的価値の怪しい港を建設させた。2年後、スリランカが支払いを果たせなくなると、中国政府は新しい港を中国に委譲するよう圧力をかけた。この港は近いうちに拡大する中国海軍の前線基地になるかもしれない。[1]
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 トランプ大統領の要求する対米貿易黒字削減は、中国の軍拡や「借金漬け外交」に使われてきたドルの流れを止める「兵糧攻め」である。もちろん、中国はドルが入らなくとも、人民元を刷って使うことはできるが、それでは人民元が暴落し、エネルギーや食料などドル建てで輸入している商品すべてが大幅値上がりをしてしまう。

 中国内では生活苦や官僚腐敗への怒りから、今でも年間20万件規模の暴動が起きていると言われている。さらにアメリカの関税引き上げで不況になり、国内は倒産や失業の嵐が吹き荒れている。これに食料やエネルギー価格の高騰まで起きたら、共産党政権自体が崩壊しかねない。

 習近平は逃げ場のないリング・コーナーに追い詰められ、そこでトランプは「棍棒」を振り上げているのである。


■4.アメリカの大義からの中国糾弾

 ペンス演説の「米国民と、彼らに選ばれた両党の連邦議員が決断した」という点も注目に値する。今回の攻勢は、トランプ政権のみならず、共和・民主両党を含め米国内で広く支持されている。

 その理由の一つは、中国の宗教弾圧を批判している点だ。ペンスはこう指弾する。

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 宗教の自由について言えば新たな迫害の波が中国のキリスト教仏教徒イスラム教徒を押しつぶしている。今年9月、中国政府は中国最大の地下教会の一つを閉鎖した。当局は十字架を壊したり、聖書を焼却したり、信者を投獄したりしている。[1]
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 アメリカは清教徒が信仰の自由を求めて建国した国である、というのが、米国民の大義である。したがってキリスト教弾圧はアメリカ国民にとって看過できないことだ。キリスト教だけではない。

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 中国は仏教も弾圧している。この10年以上の間、150人以上のチベット仏教僧侶が中国による宗教と文化への弾圧に抗議して焼身自殺した。新疆ウイグル自治区では、共産党が100万人ほどのイスラムウイグル人を収容所に入れ、昼夜を問わず洗脳している。[1]
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 特に、ウイグルの弾圧はこれまでの米政権が見てみぬふりをしてきた。それを公の場で、これだけはっきりと批判したのは、ペンス演説が初めてだろう。

 経済的メリットだけを追って今まで中国を増長させてきた米国内の親中派も、自由と人権というアメリカの大義を無視してまで、中国を支持し続ける事は出来ない。これに中国の軍拡というアメリカの安全保障上の脅威まで加わったら、なおさらである。


■5.「裸の王様」になってしまった習近平

 この攻勢に習近平はどう対応しているのか? トランプ政権が発動した昨年7月、8月の合計500億ドル分の輸入に課した関税に対し、中国はちょうど同じ500億ドル分の報復関税で対抗した。しかし、第3弾として9月に2000億ドルの輸入に対して10%の制裁関税を課されると、もう対抗できず、600億ドル分に5〜10%の関税を追加するので精一杯だった。

 アメリカはさらに今年1月から、2000億ドル対象の関税を10%から25%に引き上げると脅していたが、昨年11月アルゼンチンでのG20会合時に行われた米中首脳会談で、90日間の延期とした。中国側はアメリカから農産品や工業製品の大量輸入を約束したようだ。142項目の譲歩案も出して「べたおりした」と言われている。[2, 253]

 この完敗の一因として、習近平が完全な独裁者になった事が弱みとなっていると、石平氏は指摘する。

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あまりにも習近平中心の独裁体制ができあがったために、周囲の人はみんな、イエスマンになった。だから、彼に正しい情報を伝える人はほとんどいない。言ってみれば「裸の王様」です。[3, 617]
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 初期の関税追加に対して、中国側が報復関税で対抗したのは、アメリカ側の「決意」が見えていなかったからだろう。しかも、関税の掛け合いになったら、中国には勝ち目がないことが分かっていなかったようだ。アメリカが中国から輸入する安価な衣料や日用品などは、他の途上国からいくらでも代替が効く。

 もし個人独裁でなければ、たとえば李克強首相に交渉させて、アメリカに対して「べたおり」しても、「李克強の失敗だ」と責任転嫁できた。完全な独裁ではそれもできずに、すべての失敗の責任は習近平自身がかぶらざるを得ない。共産党内部でも習近平の失政に対する批判の声が出始めている、という。 

2020年「習近平」の終焉

2020年「習近平」の終焉

 

■6.習近平の陥った蟻地獄

 ただし、トランプ政権は中華人民共和国を潰すとか、中国共産党独裁を排除する、という所までは「決断」していないようだ。「外国の体制を変革するなんてことはやるべきではない、そこまでできるものでもない、というのがトランプの考え方です」とは、国際政治学者・藤井厳喜氏の見立てである。[3, 1144]

 現代世界には独裁国家は無数にあるが、親米で国際ルールに従っている「お行儀の良い」国なら、米国も付き合っていく。今回、トランプ大統領が自らではなく、ペンス副大統領に演説をさせたのも、この点が絡んでいると藤井源喜氏は推測する。

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 トランプは政治家ですから、習近平が泣きついてくれば、自分が出ていって話をつける。だから、トランプ本人が(弊誌注:演説を)言わなかったのではないですかね。[2, 1171]
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 しかし、習近平がいくら泣きついても、中国経済の弱体化は救いようがない。突然の崩壊か、徐々の衰退かは分からないが、中国共産党の最後の存在意義、すなわち「経済発展」が失われていく。激化する国民の反乱を抑えるために、習近平はますます独裁を強め、経済はいっそう悪化していく。

 挙げ句の果てには、局面打開のために南シナ海で戦争に打って出る可能性まで藤井氏は予想する。「大躍進」の失政で追い詰められた毛沢東が「文化大革命」という内戦を始めたように。


■7.日本が「ネギをしょったカモ」にならないために

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藤井 ペンス演説が分水嶺になって、次の時代に突入したと言っても過言ではありません。この歴史的な動きを正確に掴んで、日本の政界・財界が動かないといけません。日本にとっては、すごいチャンスが来ている。

石平 でも、自民党や財界の親中派が行く手を阻む恐れがあるのでしょう。[3, 1410]
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 石平氏はさらに言う、「一番困ったときに、中国は日本のことを思い出すんです。ただし『ネギをしょったカモ』として!」[3, 1870]。この懸念は現実となっている。2018年10月の日中首脳会談では、3兆円規模の日中スワップ協定が合意された。これはたとえば人民元が危機に陥った場合、中国は日本から円を借りて、ドルに交換することができる。

 トランプ政権の中国締め上げと逆行するもので、どうしてこんな動きが出てきたのか、いろいろ憶測が流れている。一つの仮説は、中国が秋波を送り、政財界の親中派がそれに応えようとする中で、なんとか安倍首相が3兆円で踏みとどめた、というものだ。

 もっと露骨に親中派の意図を現しているのが、安倍首相に同行した経団連・中西会長を筆頭とする訪中団だ。楊海英氏は訪問の様子を『Newsweek』で「安倍訪中に経団連の利権あり」と題して次のように評した。

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会談の冒頭、深々と頭を下げる日本の財界人と無表情の李首相との会見の様子は皇帝に謁見する前近代的な「朝貢使節」のようだった。・・・
経団連と日中経済協会は中国が推進する「一帯一路」巨大経済圏構想に乗って、ユーラシアからアフリカまで世界を席巻しようとの空論を信じているのだろうか。[4]
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 アメリカや欧州諸国が中国の正体を見破り、アジア、アフリカ、中南米諸国も一帯一路の「借金漬け外交」の犠牲になりつつある。そういう世界情勢を良く掴んで、我が国の政財界が「裸の王様に頭を下げる裸の家来」とならないよう、国民として声を上げていくべき時である。
(文責 伊勢雅臣)


■リンク■

a. JOG(937) 中国「100年マラソン」の野望
「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年にあたる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」
http://blog.jog-net.jp/201602/article_2.html

b. JOG(995) トランプ政権の「経済力による平和」戦略
 米国はシナの経済発展を助けることで、世界に牙を剥く虎を育ててしまった。その虎から、どう世界を守るのか。
http://blog.jog-net.jp/201703/article_5.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
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1. 「ペンス副大統領が中国を痛烈批判」『正論』H3012

2. 宮崎正弘、田村秀男『中国発の金融恐慌に備えよ!』★★、徳間書店、H31
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/419864750X/japanontheg01-22/

3. 藤井厳喜、石平『米中「冷戦」から「熱戦」へ トランプは習近平を追い詰める』★★★、ワック、H30
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/B07NW2TRTK/japanontheg01-22/

4. 楊海英「安倍訪中に経団連の利権あり......「一帯一路」裏切りの末路」、『Newsweek』H301025
https://www.newsweekjapan.jp/youkaiei/2018/10/post-27_1.php